『 春や昔の ― (1) ― 』
ぴゅう〜〜〜〜〜〜〜〜 がたがたがた
温暖なこの地域も 大寒 という古の名がつくこの時期には
冷え込む日々が続く。
いつもは 優しい海風もこのごろは冷たい湿気を運んでくる。
崖の上に立つギルモア邸も なんとなく寒そうに見えるたり する・・・
カタン ― 一階のフレンチ・ドアが大きく開いた。
「 うわ ・・・ さっむ〜〜〜〜〜 ・・・・ !
空気の入れ替え アン ・ ドゥ ・ トロワ で もういいわね!
あ〜〜〜〜 寒い 〜〜〜 」
開いたと思った窓は 白い手でたちまち閉められた。
「 ふ〜〜〜 ああ 寒〜〜〜〜 ヒーター 強くしよっと・・・
ああ 朝ご飯、作らないと ・・・ う〜〜〜ん
でも その前にちょっとだけ 」
白い手の主は リビングの真ん中に鎮座するコタツに
さささ ・・・ と滑りこむ。
「 ・・・ あ〜〜〜〜 ・・・ったか〜〜〜い〜〜〜〜〜 」
ぱたん。 天板に頬をつければ ― もう天国・・・
碧い瞳は自然に とろ〜〜〜ん とし 長い睫はゆらゆらし始める。
「 ・・・ ああ ダメよ 寝ちゃ・・・
朝ご飯 〜〜〜 作らないと オムレツ ・・・ 」
ほわ〜〜ん ・・・ 心地よい暖気は 彼女を夢の国へと連れ去ろうと・・・
ダダダダダ −−−−− バタンッ !!
階段が盛大に鳴り響き リビングのドアが突破?された。
「 おっはよ〜〜〜〜〜!!! おか〜さ〜〜〜ん
あさごはん〜〜〜〜〜 」
金色のお下げをぴんぴん跳ね上げ ピンクの頬をした女の子が
飛び込んできた。
「 あ? おか〜〜さ〜〜〜ん おこた でねたらダメ でしょう? 」
ぴょんっ!!! 彼女はお母さんの背中に飛び付いた。
「 !? あ〜〜 な なに?? 」
お母さんは びく・・・っと飛び起きそうになった。
すぴかは きゅん、と抱き付いた。
「 えへへ おか〜さん おはよ〜〜〜〜 」
「 ・・・あ ああ すぴか ・・・ おはよう ・・・ 」
「 ね〜〜 おなかすいた〜〜〜 」
「 ああ そうね 朝ご飯 ・・・
すぴかは ごはんとお味噌汁 がいいのよね 」
「 ん♪ あ たまがやき あるよね〜〜 」
「 ありますよ あら すぴかさん、その恰好じゃ寒くない? 」
すぴかはジーンズに にゃんことわんこの顔がついたトレーナーを
ぴらっと着ているだけだ。
「 うう〜〜ん さむくな〜〜い ねえ おなかすいた〜〜 」
「 はいはい じゃ 手伝ってね ・・・ すばるは? 」
「 ま〜だ ぐ〜すかねてるよぉ
あ おと〜さんも! ずご〜〜〜 って聞こえたもん 」
「 ああ そうね まだ早いもんね。
( やだ・・・ジョーってばイビキなんかかいてるわけ?? )
じゃ すぴかさん、ごはんのお茶碗、並べてくれるかな 」
「 はあい〜 あ おみそしる なに〜 」
「 すぴかさんの好きな じゃがいも と タマネギ よ 」
「 うわ〜〜〜い(^^♪ 」
「 じゃ お母さん、 オムレツ、焼くわね 」
「 わあい おむれつ〜〜〜 だいすき(^^♪ 」
「 ただいま ・・・ 」
カタン。 リビングのドアが静かに開いて博士が入ってきた。
マフラーを静かに外し ほ・・・っと息をついている。
博士は 早朝散歩をずっと続けているのだ。
「 いやあ 今朝は冷えるのう〜〜 」
「 おじ〜ちゃま〜〜 おはよ〜〜〜 」
「 おお おはよう すぴか。 いつも早起きじゃなあ 」
「 おじ〜ちゃま おさんぽ さむかった?
あ あっついおちゃ のむ? 」
「 うむ うむ ・・・ 今 手を洗ってくるからな
すぴかに熱いお茶 を頼もうな 」
「 はあい! おか〜さん アタシ おじ〜ちゃまのおちゃ いれる〜 」
「 はい お願いね。 あ 気をつけるのよ、火傷しないように 」
「 うん! えっと おきゅうす に おちゃのはっぱ いれて〜〜 」
すぴかは 案外器用にお茶っ葉を急須にいれると ポットの温度をみている。
「 ん〜〜〜 ふっとう じゃダメなんだよね〜〜
ちょっちひくいのがいいんだって ・・・ あ これかあ 」
ジャ −−− ( しばらく待って ) トポポポ ・・・・
「 ん〜〜。 これでいっかな〜〜
あ おじいちゃまあ あっついおちゃ どうぞ! 」
そろり そろり ・・・ 擦り足で湯呑みを運んできた。
「 おお ありがとうよ すぴか。 〜〜〜ん 美味しいなあ 」
「 うふふ・・・おいしい?」
「 ああ ものすごく美味しいよ。 すぴかが淹れてくれたんだもの 」
「 えへへ ・・ アタシはねえ もうちょっちぬるくないと
のめないんだ〜〜 」
「 いいんだよ それで。 すぴかはお茶を淹れるのが上手だねえ 」
博士の大きな手が 金色のアタマにそっと乗せられる。
「 えっへっへ〜〜 あ ごはん ごはん〜〜〜
おじ〜ちゃまもごはん だよね?
おちゃわん、 ならべるね〜〜〜 おか〜さん 」
「 はい ありがとう。 さあ〜〜 オムレツ 出来たわよ 」
じゅわ〜〜〜 ・・・
湯気のたつお皿が三つ、食卓に置かれた。
「 うわ・・・ いいにおい〜〜〜〜 」
「 うふふ ・・・ あ すぴかさん ゴハンをよそってくれる?
お母さんは お味噌汁をよそうわ 」
「 はあい わあ〜〜〜〜 ごはん あったか〜〜〜
はい おじ〜ちゃま。 これは おか〜さんの、 そんで
これは アタシ。 わ〜〜〜 ほかほか〜〜 」
「 そうねえ ほかほかね。 はい お味噌汁ですよ〜 」
「 きゃっほ〜〜 たまねぎ〜〜 ♪ 」
「 ふ〜〜ん これもいい香じゃな。 」
博士も味噌汁の香を楽しんでいる。
「 さあ 朝ごはん 頂きましょうね 」
「 わあ〜い えっと ・・・ よいしせいになりましょう〜
てをあわせてください いただきまあす 」
「「 いただきます 」」
朝陽の差すテーブルで ほかほかの朝ご飯が始まった。
「 ん〜〜〜〜 おいし〜〜〜 おか〜さん
けさのおみそしる すっご おいし〜〜〜 」
「 ふふふ すぴかさんの大好きですものね 」
「 ふむふむ ・・・ ウチのオムレツは最高じゃな〜〜
お。 浅漬けもいい具合じゃ 」
「 ん!! アタシ きゅ〜りもすき〜〜 おいし〜〜〜 」
すぴかの小さな真珠色の歯が 勢いよく浅漬けをかみ砕く。
「 ん ん ん ! おいし〜〜〜 きゅ〜り おいし〜〜 」
「 そうね 今朝はとても美味しく漬かったわね 」
「 あ〜〜〜 おいし〜〜〜 」
「 うん これはオイシイわねえ 」
「 うむ うむ いい味じゃ ・・・ 時に 寝坊組はまだかね 」
「 ジョーはまだまだですね すばるは ・・・ 」
「 あ かいだん、 おりてきたよ〜〜 」
すぴかは ゴハンに集中しつつ何気なく言うのだ。
「 え?? 足音 聞こえる?? 」
「 ん〜〜 おいし〜〜〜 え? あ そんな気がしたんだ〜〜 」
「 ?? 」
カッチャン −− トン トン トン
リビングのドアがゆっくり開いて 茶髪のくせっ毛坊主がのんびり入ってきた。
「 おはよ〜〜〜〜 おじ〜ちゃまぁ おか〜〜さ〜〜ん すぴか〜〜 」
「 おお おはよう すばる。 やっと起きたかい 」
「 おはよう すばるクン。 顔 洗ったの?? 」
「 あ〜〜〜 あらった かなあ〜〜 」
「 すばる! ズルはだめだよっ 」
すぴかにするどく指摘され? すばるは えへへへ〜〜〜 と笑う。
「 ・・・ あ〜〜 あとで あらう〜〜〜 」
「 だめ。 顔洗って くちゅくちゅする! それからごはん! 」
「 ・・・ へ〜い 」
「 もう すばるってば・・・ ねえ すぴか。
どうしてすばるが顔洗ってないってわかるの? 」
「 え〜? ・・・ うん なんとなく。 」
「 ふうん ・・・ 不思議ねえ ・・・
ああ すばるはパンが食べたいのよね 」
フランソワ―ズは 食パンを一枚、オーブン・トースターに入れた。
「 ほかほかごはんがおいしいのにね〜〜〜 おか〜さん 」
「 ま いいわ。 すばるはねえ 猫舌みたいね 」
「 ねこじた?? 」
「 猫さんと同じ舌の持ち主ってこと。
猫さんはねえ 熱いものが苦手なのよ 」
「 へえ〜〜 すばるってば ねこさんなんだ〜〜 」
「 すぴかさんは熱いものも辛いものも平気ね。 」
「 え だってみんなおいしいじゃん?
あ おか〜さん アタシもあついおちゃ ほしい 」
「 はいはい すぴかにはほうじ茶 淹れるわね 」
「 わい〜〜 あ〜〜 おなかいっぱい 」
ぱった ぱった ぱった ・・・
前髪から雫を少々垂らしつつ すばるが戻ってきた。
「 おか〜さん ごはん〜〜〜 」
「 すばる かみ ぬれてるっ 」
「 あ? ・・・あ〜〜 うん そのうちかわくってば
ねえ 僕 と〜すと がいいなあ 」
「 はい もう焼けるわよ。 」
ことん ことん。 すばるの前に熱々のオムレツの皿と
お味噌汁のお椀が並ぶ。 焼きたてトーストもすぐにやってきた。
「 わ〜〜い あ いっただっきまあす〜〜〜
え〜〜とぉ 〜〜〜 」
すばるはすぐには箸を取り上げず なにやら作業をしている。
「 なにやってんの すばる 」
「 ・・・っと。 これ おいしいよ〜〜 」
「 え なに それ〜〜 」
すばるは、浅漬けのキュウリとナスをトーストに乗せ まよね〜ず を
うにゅう〜〜〜ん・・・。
オムレツにはイチゴジャムが ケチャップみたいにのっかっている。
「 えへ これおいしよ〜〜 」
「 え〜〜〜 あさづけ はね ぱりぱりたべるのがおいしいの!
オムレツにジャムって ヘン〜〜〜〜 」
「 だっておいし〜〜んだも〜〜ん 」
姉の抗議?など どこ吹く風〜〜 すばるはにこにこ顔で
浅漬けと〜すと にかぶり付く。
「 ふ〜〜ん ヘンなんなのぉ〜〜 」
「 ・・・ まあ いいんじゃない?
とにかくすばるが ちゃんと野菜を食べるってだけでも満点だわ 」
「 え〜〜 おか〜さんってば あま〜〜い〜〜〜 」
「 そう・・・? 」
「 だってぇ〜〜 」
「 そうかもしれないわねえ じゃあ 明日からキビシクしましょうか?
すばるの朝御飯は ごはんにタクアンだけ とか 」
「 あ! アタシ たくあん だいすき〜〜〜〜〜
ねえねえ あした アタシもたくあん〜〜〜 」
「 え・・・ あら 」
「 ははは まあまあ 食べ物の好みはそれぞれだからのう〜〜
ちゃんと野菜も食べればよし、としようか。
すばる〜 お皿は空にしたか? 味噌汁も飲んだか 」
「 ん〜〜〜〜〜〜 おみそしる おいし〜〜〜〜〜
ねえ たまねぎ ってあまいね〜〜 じゃがいも ほこほこ〜〜
あ〜〜 おいし〜〜〜 ( ず〜〜〜 ← 味噌汁を飲み干す音 ) 」
「 ああ やっとたべおわったあ? 」
「 ・・・ ん〜〜〜 」
「 ね〜〜 はみがき したらさあ〜 うらやま いこうよ!
アレ・・・ あるかも〜〜 」
「 ほにゃ? ・・・ ! あ そだね〜〜〜
うん まって くちゅくちゅしてくっか 」
すばるは ごちそ〜さま をするとばたばた出ていった。
「 すぴかさん。 お外に遊びにゆくの? 」
「 ウン うらやま 」
「 ちゃんとダウン・ジャケット着てゆくこと。 裏山は寒いわ 」
「 アタシ さむくないよ〜〜 」
「 お部屋の中では ね。 ちゃんと着て。 手袋も 」
「 え〜〜〜〜 」
「 暑くなったら腰に巻いてればいいでしょう?
風邪 ひいたら お外にでられらなくなりますよ 」
「 ・・ ふぁ〜〜〜い 」
元気モノのすぴかは渋々 緑のダウンを着た。
これは アルベルト伯父さんからのクリスマス・プレゼントで
がっしりした作りで抜群の保温性があり お母さんは安心していられる。
「 そうそう ・・ よく似合ってるわよ 」
「 ぷふぁ〜〜〜〜 すばる〜〜〜〜 いくよ〜〜〜 」
「 まって まってぇ〜〜〜 」
どた どた どた −−−−
「 おまた〜〜せ〜〜〜 」
「 あ ら すばる 」
すばるが もこもこで現れた。 パープルのダウンに白い毛糸のマフラーを
目の上までぐるぐる巻いて 同じ色の帽子をすっぽり。 両手も手袋で
出ているのは 茶色の瞳だけ って感じだ。
「 えへへ・・・ ふっかふか〜〜〜 」
彼は手袋の両手を ぱんぱん・・と叩く。
「 すばるってば ゆきだるま みたい〜〜〜 」
「 あったかいよぉ〜〜 きのうえ ってさむいじゃん 」
「 木の上? ちょっと〜〜 あなた達 裏山の木はあぶないわ。
登ってはだめ 」
「 え〜〜〜〜 ウチのかしのきよかふっと〜〜いんだよぉ?
ぜ〜〜んぜんへいきだもん 」
「 おか〜さん 僕ものぼれるんだあ 」
「 まあ 二人して登っているの? 」
「「 うん 」」
「 困ったわねえ そうだわ 後でお父さんに調べてもらいましょう
それで大丈夫ってわかれば 登ってもいいわ 」
「 え〜〜〜 ・・・ おと〜さん まだねてるじゃ〜〜ん 」
「 あ 僕 おこしてこよっか! 」
すばるが ぽん、と手を叩く。
「 あ ・・・ お父さんねえ 昨夜 お帰りが遅かったの。
もうちょっと寝かせておいてあげて ・・・ 」
「 ふ〜〜ん ・・・ じゃあ まってるから 」
「 え〜〜〜 アタシ きのぼり、したい〜〜 」
「 すぴか アレ、さがそうよ? 池のむこうのとこ、
おひさま い〜っぱいだし 」
「 え あ う〜〜ん ・・・ そだね!
おか〜さん! おと〜さんがおきたら うらやまにきて って! 」
「 はいはい。 ちゃんと伝えますよ。
だからね それまでは木登り、しないでね 」
「「 ふぇ〜〜い 」」
二人は なんとな〜〜く浮かない顔をしたが それでも
元気よく勝手口から駆けだして行った。
「 ・・・ 裏山ねえ ・・・ そんなに危険だとは思わないけど
でも手入れも管理もしていないから ・・・
とにかくジョーに調べてもらいましょ 」
フランソワーズは なにやらメモを書いて ジョーの茶碗の上に置いた。
「 さ ここの置いておけば絶対に読むわよね。
え〜と・・・オムレツはチンすればいいし ゴハンはジャーの中。
お味噌汁くらい温めてね〜〜
・・・ う〜〜ん やっぱり土曜はいいわねえ〜〜〜 」
フランソワーズはエプロンを外し 伸びをした。
今日は ステキに土曜?なので 皆ゆっくり朝ご飯を楽しみ
そのあと それぞれの時間をすごしている。
博士は ベランダで盆栽の手入れをしてから書斎に籠った。
チビ達は 裏山に遊びに出た。
「 さあ〜て ・・・と。 今日はクラス お休みだから・・・
そうだわ ジュニアクラスの教えまで 買い物、いってきましょう 」
フランソワ―ズは < おそうじロボ > を始動させると
二階に上がって行った。
珍しく 島村さんちが暮らす邸の中は静まり返っていた。
― そして。
ぽ ポウ ぽ ポウ ぽ ポウ ・・・
居間の鳩時計が た〜〜くさん鳴いて ・・・
皆の食器が水切り籠の中でほとんど乾いたころ。
「 ・・・ふぁ〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・ お はよ 〜〜〜 」
ぼさぼさ髪のジャージ姿が ぼ〜〜〜っとリビングに現れた。
「 ・・・ ん〜〜〜 ??
あれえ ・・・ 皆 まだ寝てるのかなあ〜〜 だれもいないよ? 」
ぼわぼわ〜アクビをしつつ 彼はリビングをきょろきょろ見回す。
「 あ 朝刊がちゃんと畳んである ・・・ってことは
博士がもう全部目を通したってこと か ・・・
うん? ・・・ なんか今朝 温かいよなあ ?
あ〜〜 朝メシ 朝メシ 〜〜〜 ・・・・ 」
ぱったん ぱったん ぱったん
スリッパを引っ掛けつつキッチンに行き ― そこにも誰もいない。
きっちり片付いたテーブルの上には 彼の茶碗とお箸だけが
ぽつねんと置かれていた。
「 ・・・ あ。 もうこんな時間 かあ・・・ 」
やっと 時計に目が行って ― ジョーはかなりの寝坊を自覚した やっと。
「 やば〜〜〜 ・・・って土曜だけど ・・・
あれえ フラン?? 今日は朝のクラスは休みって言ってたのに
チビ達は ・・・・? うん? 」
彼はようやく 自分の茶碗の上に留めてあるメモに気付いた。
「 あ〜 ・・・? なんだぁ ・・・ メシの場所ならわかってるぞ?
・・・ え チビ達 裏山かあ〜〜 まあ あそこは一応安全・・・
木?? でっかい古木ばっかだけど チビ達なら大丈夫だろ
・・・ あ〜〜 はいはい 安全確認しときますよ
ま〜ずは 腹ごしらえ っとぉ♪ 」
さて と。 彼はのんびり朝ご飯をセットし始めた。
「 ・・・ ん〜〜〜〜 味噌汁 うま〜〜〜〜
じゃがいも と たまねぎ の組み合わせって最高だよなあ ・・・
うま〜〜〜 ・・・ うふふ 卵焼き(^^♪ えへへへ ・・・
あ〜〜〜 ウチの朝御飯は最高だあ〜〜 」
熱々のゴハンも味噌汁もお代わりをし、卵焼きも浅漬けもぺろり。
「 ・・・ 美味かったぁ うふふ シアワセ ・・・
ごちそうさまでした(^^♪ さて と 」
食器を食洗器に入れ テーブルを拭き 布巾をキッチンの窓に干す。
「 ん〜〜 これでいっか。 ふぁ〜〜〜 また眠くなってきた・・・
ん? ナンかやること あった・・・っけ? 」
リビングのソファにどっかりと座りこんで ― ふと思い出した。
「 あ。 そうだよ〜〜 裏山だあ〜〜 チビ達!
大丈夫だと思うけどなあ まあ 一緒に遊んでくるかぁ〜〜 」
カッコロ カッコロ −−−−
庭用サンダルをつっかけ ジョーは勝手口から出ていった。
「 ふ〜〜〜 ・・・ あ 寒いかも・・・・
ダウン、着てくるべきだったかなあ・・・ ま いっか 」
ジャージにトレーナー姿のまま 出てきたのだ。
カン カン カン ― 洗濯モノ干し場を抜けて 温室の横を通り
形ばかりの小さな裏口のトビラを開けた。
ひゅるん 〜〜〜 やっぱり冷たい風が吹いてきた。
「 う ・・・ さむ・・・ やば〜〜〜 でも戻るのもめんどくさ・・・
いいや 走ってゆこ。 あの池の側の古木だよなあ 」
カッ カッツ カッツ ずず もご もご ・・・
裏山に踏み込んでゆくと すぐに足元が柔らかくなってきて
庭サンダルの音は重くなってきた。
「 あや〜〜〜 こりゃスニーカーにすればよかったかなあ・・・
池ってもっと奥なのに ・・・ 」
ぶわぶわした地面からは ぼこぼこ木の根っこやら岩の一部が覗いていて
ジョーの足元を狙っている。
「 ・・・ うわ・・・ あっぶね〜〜〜〜
すげ〜な〜〜 アイツら こんなトコで遊んでいるのか ・・・ 」
しばらく行くと 行く手は薮で遮られてしまっている。
「 あれ・・・ 行きどまり か?!
あ いやいや ここは前にすぴかが教えてくれたトコだぞ?
確か ― ? 」
− そう 夏休みに ジョーはすぴかに裏山を案内してもらっていた。
「 おと〜さん こっちこっち〜〜 」
すぴかがぴんぴん跳ねながら先を走ってゆく。
「 待ってくれよ〜 すぴか〜〜
ん? あれ ここで行きどまりだよ? 」
ジョ―が薮の前でうろうろしていると すぴかがつんつん手を引っ張った。
「 おと〜さん ここ。 この下、とおるとね〜〜〜
あっちがわにゆけるんだよ〜〜 いこ! 」
「 あ・・・ 待ってくれよ〜〜 」
「 ここだよ〜〜〜 ほらあ〜〜 」
ガサゴソ ガサ −−− すぴかはするり、と薮の下を抜けてゆく。
「 わあ 待ってくれえ〜〜 ううう 四つん這いだな こりゃ 」
ジョーは 湿った地面に手と膝をついてすぴかの後を追った。
「 おと〜さ〜〜ん こっち こっち〜〜〜 」
「 お〜〜い すぴか〜〜〜 待ってくれえ〜〜〜 」
ガサリ。 やっと薮を抜ければ − 目の前には 池があった。
「 ・・・ おわ!?!? すっげ〜〜な〜〜〜 」
「 でしょ? あのね あのね 池のむこうの木、あるでしょ 」
「 うん? どれ・・・ ああ あれかあ 太い樹だねえ 」
「 あの木のうえ と〜〜〜ってもすずしいんだよ〜〜 」
「 ・・・ すぴか のぼったのかい 」
「 うん カンタンだよ〜〜 」
「 ・・・ あの な。 お母さんにはナイショにしておけよ? 」
「 ?? なんで?? 」
「 あぶない〜〜って 騒ぐから 」
「 あ〜〜 あはは そうだね〜〜〜 おと〜さんはいわないの? 」
「 なにを 」
「 あぶない〜〜って さ 」
「 あ〜 うん ・・・・ あの木ならすぴかが登っても大丈夫だろ
それに すぴかは木から落っこちたりしないもんな 」
「 ぴんぽ〜〜ん おと〜さん ってばすご〜い〜〜 」
「 だけど。 気を付けろよ? いいな。
お父さんはすぴかを信用してるんだぞ 」
「 うん。 わかった。 」
すぴかはものすごく真剣な顔で こっくり頷いた。
本気で向き合えば コドモはちゃんと本気で応えてくれる。
・・・ そんなコトがあったので ジョーは ああ あの木か という
わりと安閑とした気分だったのだ。
「 ウチの奥さんは心配性だからなあ ・・・
ま 一応調べておくか〜〜 すぴか〜〜 すばる〜〜〜 いるかい〜〜 」
周囲を見回し 呼んでみたが 応えはない。
二人が遊んでいるらしき声も聞こえない。
「 あれえ ここにはもういないのかなあ・・・
え〜と ここを飛び越えればすぐだな〜〜 」
ジョーは 庭サンダルのまま 湿った大地を蹴った ― はず・・・
ずっこ〜〜〜〜〜〜ん !!!
あ ・・・ ! ― 足元を取られ 彼は見事にすっ転んだ。
か〜〜〜〜ん
なにかとても硬いものにアタマが当たった、と思ったとたん、
辺りは真っ暗になり ― 009とあろうものが失神してしまった ・・・
「 − 大丈夫ですか? 」
・・・ あ ・・・・?
ふと気付けば 見知らぬ顔が覗きこんでいる。
「 ・・ あ ・・・ ああ な なんとか 」
ジョーは 肘をついて起き上がったが ― 身体の下は濡れた大地・・・ではない。
つるつるした ― でもかなり硬いリノリウムみたいなもの上に 彼はいた。
「 ??? な なんだ? 」
「 大丈夫ですか ケガ ありませんか 」
「 ・・ あ ああ なんとか ・・・ 」
「 起きられますか 」
「 は はい すいません〜 」
彼は ようやっと起き上がったが 目に前には見慣れぬ男性が立っていた。
?? だ だれだ???
裏山には ウチの土地を通らないと
入れないはずだよ?
「 あ ?? 」
「 よかった。
ここはずいぶん昔に市に寄贈された土地なんですけど
まあ 僻地なんであまりヒトは来ませんけどね 」
「 ― へ ・・・ ? 」
彼は 改めて頭を巡らせ周囲を眺めた。
そこは ― 雑多な木々が生い茂り湿った大地と薮だらけの 裏山 ではなかった。
足元はつるつるの素材で 隅っこにしょぼしょぼ元気のない木々が見える。
??? こ ここは ・・・・??
Last updated : 01.31.2023.
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********** 途中ですが
早春って ― なんか切ないよね ・・・・
一応 【島村さんち】 シリーズ かも。