『  春や昔の ― (1) ―  』

 

 

 

 

     ぴゅう〜〜〜〜〜〜〜〜  がたがたがた

 

温暖なこの地域も 大寒 という古の名がつくこの時期には

冷え込む日々が続く。

いつもは 優しい海風もこのごろは冷たい湿気を運んでくる。

崖の上に立つギルモア邸も なんとなく寒そうに見えるたり する・・・

 

   カタン ―  一階のフレンチ・ドアが大きく開いた。

 

「 うわ ・・・ さっむ〜〜〜〜〜 ・・・・ !

 空気の入れ替え アン ・ ドゥ ・ トロワ  で もういいわね!

 あ〜〜〜〜 寒い 〜〜〜 」

 

開いたと思った窓は 白い手でたちまち閉められた。

「 ふ〜〜〜 ああ 寒〜〜〜〜 ヒーター 強くしよっと・・・

 ああ 朝ご飯、作らないと ・・・ う〜〜〜ん

 でも その前にちょっとだけ 

白い手の主は リビングの真ん中に鎮座するコタツに

さささ ・・・ と滑りこむ。

 

「 ・・・ あ〜〜〜〜 ・・・ったか〜〜〜い〜〜〜〜〜 」

 

ぱたん。  天板に頬をつければ ― もう天国・・・

碧い瞳は自然に とろ〜〜〜ん とし 長い睫はゆらゆらし始める。

「 ・・・ ああ ダメよ 寝ちゃ・・・

 朝ご飯 〜〜〜  作らないと  オムレツ ・・・ 」

ほわ〜〜ん ・・・ 心地よい暖気は 彼女を夢の国へと連れ去ろうと・・・

 

    ダダダダダ −−−−−    バタンッ !!

 

階段が盛大に鳴り響き リビングのドアが突破?された。

 

「 おっはよ〜〜〜〜〜!!! おか〜さ〜〜〜ん

 あさごはん〜〜〜〜〜 

 

金色のお下げをぴんぴん跳ね上げ ピンクの頬をした女の子が

飛び込んできた。

 

「 あ? おか〜〜さ〜〜〜ん   おこた でねたらダメ でしょう? 」

ぴょんっ!!!  彼女はお母さんの背中に飛び付いた。

「 !? あ〜〜  な なに?? 」

お母さんは びく・・・っと飛び起きそうになった。

すぴかは きゅん、と抱き付いた。

「 えへへ  おか〜さん おはよ〜〜〜〜 」

「 ・・・あ ああ すぴか ・・・  おはよう ・・・ 」

「 ね〜〜 おなかすいた〜〜〜  」

「 ああ そうね 朝ご飯  ・・・ 

 すぴかは ごはんとお味噌汁 がいいのよね 」

「 ん♪  あ たまがやき あるよね〜〜 」

「 ありますよ   あら すぴかさん、その恰好じゃ寒くない? 」

すぴかはジーンズに にゃんことわんこの顔がついたトレーナーを

ぴらっと着ているだけだ。

「 うう〜〜ん さむくな〜〜い  ねえ おなかすいた〜〜 」

「 はいはい じゃ 手伝ってね  ・・・ すばるは? 」

「 ま〜だ ぐ〜すかねてるよぉ 

 あ おと〜さんも! ずご〜〜〜 って聞こえたもん 」

「 ああ そうね まだ早いもんね。 

 ( やだ・・・ジョーってばイビキなんかかいてるわけ?? )

 じゃ すぴかさん、ごはんのお茶碗、並べてくれるかな 」

「 はあい〜  あ おみそしる なに〜 」

「 すぴかさんの好きな じゃがいも と タマネギ よ 」

「 うわ〜〜〜い(^^♪ 」

「 じゃ お母さん、 オムレツ、焼くわね 」

「 わあい  おむれつ〜〜〜 だいすき(^^♪ 」

 

「 ただいま  ・・・ 

 

カタン。 リビングのドアが静かに開いて博士が入ってきた。

マフラーを静かに外し ほ・・・っと息をついている。

博士は 早朝散歩をずっと続けているのだ。

「 いやあ 今朝は冷えるのう〜〜 

「 おじ〜ちゃま〜〜 おはよ〜〜〜 」

「 おお おはよう すぴか。 いつも早起きじゃなあ 」

「 おじ〜ちゃま おさんぽ さむかった? 

 あ あっついおちゃ のむ? 」

「 うむ うむ ・・・ 今 手を洗ってくるからな 

 すぴかに熱いお茶 を頼もうな 

「 はあい! おか〜さん アタシ おじ〜ちゃまのおちゃ いれる〜 」

「 はい お願いね。 あ 気をつけるのよ、火傷しないように 」

「 うん!  えっと おきゅうす に おちゃのはっぱ いれて〜〜 」

すぴかは 案外器用にお茶っ葉を急須にいれると ポットの温度をみている。

「 ん〜〜〜 ふっとう じゃダメなんだよね〜〜

 ちょっちひくいのがいいんだって ・・・ あ これかあ 

 

    ジャ −−−  ( しばらく待って ) トポポポ ・・・・

 

「 ん〜〜。  これでいっかな〜〜 

 あ おじいちゃまあ あっついおちゃ  どうぞ! 」

そろり そろり ・・・ 擦り足で湯呑みを運んできた。

「 おお ありがとうよ すぴか。  〜〜〜ん 美味しいなあ 」

「 うふふ・・・おいしい?」

「 ああ ものすごく美味しいよ。 すぴかが淹れてくれたんだもの 」

「 えへへ ・・ アタシはねえ もうちょっちぬるくないと

 のめないんだ〜〜 」

「 いいんだよ それで。    すぴかはお茶を淹れるのが上手だねえ 」

博士の大きな手が 金色のアタマにそっと乗せられる。

「 えっへっへ〜〜    あ ごはん ごはん〜〜〜

 おじ〜ちゃまもごはん だよね? 

 おちゃわん、 ならべるね〜〜〜 おか〜さん 」

「 はい ありがとう。 さあ〜〜 オムレツ 出来たわよ 」

 

   じゅわ〜〜〜 ・・・ 

 

湯気のたつお皿が三つ、食卓に置かれた。

「 うわ・・・ いいにおい〜〜〜〜 」

「 うふふ ・・・ あ すぴかさん ゴハンをよそってくれる?

 お母さんは お味噌汁をよそうわ 」

「 はあい   わあ〜〜〜〜  ごはん あったか〜〜〜 

 はい おじ〜ちゃま。  これは おか〜さんの、 そんで

 これは アタシ。  わ〜〜〜 ほかほか〜〜 」

「 そうねえ ほかほかね。 はい お味噌汁ですよ〜 」

「 きゃっほ〜〜 たまねぎ〜〜 ♪ 」

「 ふ〜〜ん これもいい香じゃな。 」

博士も味噌汁の香を楽しんでいる。

「 さあ 朝ごはん 頂きましょうね 」

「 わあ〜い  えっと ・・・ よいしせいになりましょう〜

 てをあわせてください   いただきまあす 」

「「 いただきます 」」

朝陽の差すテーブルで ほかほかの朝ご飯が始まった。

 

「 ん〜〜〜〜 おいし〜〜〜 おか〜さん

 けさのおみそしる すっご おいし〜〜〜  」

「 ふふふ  すぴかさんの大好きですものね 」

「 ふむふむ ・・・  ウチのオムレツは最高じゃな〜〜

 お。 浅漬けもいい具合じゃ  

「 ん!! アタシ きゅ〜りもすき〜〜 おいし〜〜〜 

すぴかの小さな真珠色の歯が 勢いよく浅漬けをかみ砕く。

「 ん ん  ん ! おいし〜〜〜 きゅ〜り おいし〜〜 」

「 そうね 今朝はとても美味しく漬かったわね 」

「 あ〜〜〜 おいし〜〜〜 」

「 うん これはオイシイわねえ 

「 うむ うむ いい味じゃ ・・・ 時に 寝坊組はまだかね 

「 ジョーはまだまだですね   すばるは ・・・ 」

「 あ  かいだん、 おりてきたよ〜〜 」

すぴかは ゴハンに集中しつつ何気なく言うのだ。

「 え??  足音 聞こえる?? 」

「 ん〜〜 おいし〜〜〜  え? あ そんな気がしたんだ〜〜 

「 ?? 」

 

   カッチャン −−  トン トン トン

 

リビングのドアがゆっくり開いて 茶髪のくせっ毛坊主がのんびり入ってきた。

「 おはよ〜〜〜〜 おじ〜ちゃまぁ おか〜〜さ〜〜ん すぴか〜〜 

「 おお おはよう すばる。 やっと起きたかい 」

「 おはよう すばるクン。 顔 洗ったの?? 」

「 あ〜〜〜  あらった  かなあ〜〜 」

「 すばる! ズルはだめだよっ 」

すぴかにするどく指摘され? すばるは えへへへ〜〜〜 と笑う。

「 ・・・ あ〜〜 あとで あらう〜〜〜 」

「 だめ。 顔洗って くちゅくちゅする! それからごはん! 」

「 ・・・ へ〜い 」

「 もう すばるってば・・・  ねえ すぴか。 

 どうしてすばるが顔洗ってないってわかるの? 」

「 え〜? ・・・ うん なんとなく。 」

「 ふうん ・・・ 不思議ねえ ・・・

 ああ すばるはパンが食べたいのよね 」

フランソワ―ズは 食パンを一枚、オーブン・トースターに入れた。 

「 ほかほかごはんがおいしいのにね〜〜〜 おか〜さん 」

「 ま いいわ。  すばるはねえ 猫舌みたいね 」

「 ねこじた?? 」

「 猫さんと同じ舌の持ち主ってこと。

 猫さんはねえ 熱いものが苦手なのよ 」

「 へえ〜〜  すばるってば ねこさんなんだ〜〜 

「 すぴかさんは熱いものも辛いものも平気ね。 」

「 え だってみんなおいしいじゃん? 

 あ おか〜さん アタシもあついおちゃ ほしい 

「 はいはい  すぴかにはほうじ茶 淹れるわね 」

「 わい〜〜 あ〜〜 おなかいっぱい 」

 

   ぱった ぱった ぱった ・・・

 

前髪から雫を少々垂らしつつ すばるが戻ってきた。

「 おか〜さん ごはん〜〜〜 」

「 すばる  かみ ぬれてるっ 」

「 あ? ・・・あ〜〜 うん そのうちかわくってば

 ねえ 僕 と〜すと がいいなあ 」

「 はい もう焼けるわよ。 」

ことん ことん。 すばるの前に熱々のオムレツの皿と

お味噌汁のお椀が並ぶ。  焼きたてトーストもすぐにやってきた。

「 わ〜〜い  あ  いっただっきまあす〜〜〜

 え〜〜とぉ 〜〜〜  」

すばるはすぐには箸を取り上げず なにやら作業をしている。

「 なにやってんの すばる 

「 ・・・っと。 これ おいしいよ〜〜 

「 え  なに それ〜〜 」

 

すばるは、浅漬けのキュウリとナスをトーストに乗せ まよね〜ず を

うにゅう〜〜〜ん・・・。

オムレツにはイチゴジャムが ケチャップみたいにのっかっている。

 

「 えへ これおいしよ〜〜 」

「 え〜〜〜 あさづけ はね ぱりぱりたべるのがおいしいの!

 オムレツにジャムって ヘン〜〜〜〜 」

「 だっておいし〜〜んだも〜〜ん 」

姉の抗議?など どこ吹く風〜〜 すばるはにこにこ顔で

浅漬けと〜すと にかぶり付く。

「 ふ〜〜ん ヘンなんなのぉ〜〜 」

「 ・・・ まあ いいんじゃない? 

 とにかくすばるが ちゃんと野菜を食べるってだけでも満点だわ 」

「 え〜〜 おか〜さんってば あま〜〜い〜〜〜 

「 そう・・・? 」

「 だってぇ〜〜 」

「 そうかもしれないわねえ  じゃあ 明日からキビシクしましょうか?

 すばるの朝御飯は ごはんにタクアンだけ とか 」

「 あ! アタシ たくあん だいすき〜〜〜〜〜

 ねえねえ あした アタシもたくあん〜〜〜 」

「 え・・・ あら 」

「 ははは  まあまあ 食べ物の好みはそれぞれだからのう〜〜

 ちゃんと野菜も食べればよし、としようか。  

 すばる〜 お皿は空にしたか?  味噌汁も飲んだか 

「 ん〜〜〜〜〜〜  おみそしる おいし〜〜〜〜〜

 ねえ たまねぎ ってあまいね〜〜 じゃがいも ほこほこ〜〜

 あ〜〜 おいし〜〜〜 ( ず〜〜〜  ← 味噌汁を飲み干す音 ) 

「 ああ やっとたべおわったあ? 」

「 ・・・ ん〜〜〜 

「 ね〜〜 はみがき したらさあ〜 うらやま いこうよ! 

 アレ・・・ あるかも〜〜 」

「 ほにゃ? ・・・ ! あ そだね〜〜〜

 うん まって くちゅくちゅしてくっか 」

すばるは ごちそ〜さま をするとばたばた出ていった。

「 すぴかさん。 お外に遊びにゆくの? 

「 ウン うらやま 

「 ちゃんとダウン・ジャケット着てゆくこと。 裏山は寒いわ 」

「 アタシ さむくないよ〜〜 

「 お部屋の中では ね。 ちゃんと着て。 手袋も 」

「 え〜〜〜〜 」

「 暑くなったら腰に巻いてればいいでしょう? 

 風邪 ひいたら お外にでられらなくなりますよ 」

「 ・・ ふぁ〜〜〜い 

元気モノのすぴかは渋々 緑のダウンを着た。

これは アルベルト伯父さんからのクリスマス・プレゼントで

がっしりした作りで抜群の保温性があり お母さんは安心していられる。

「 そうそう ・・ よく似合ってるわよ 

「 ぷふぁ〜〜〜〜   すばる〜〜〜〜 いくよ〜〜〜 」

「 まって まってぇ〜〜〜 

 

    どた どた どた  −−−−

 

「 おまた〜〜せ〜〜〜 」

「 あ ら すばる 」

すばるが もこもこで現れた。 パープルのダウンに白い毛糸のマフラーを

目の上までぐるぐる巻いて 同じ色の帽子をすっぽり。 両手も手袋で

出ているのは 茶色の瞳だけ って感じだ。

「 えへへ・・・ ふっかふか〜〜〜 」

彼は手袋の両手を ぱんぱん・・と叩く。

「 すばるってば ゆきだるま みたい〜〜〜 

「 あったかいよぉ〜〜   きのうえ ってさむいじゃん 

「 木の上?  ちょっと〜〜 あなた達 裏山の木はあぶないわ。

 登ってはだめ 」

「 え〜〜〜〜 ウチのかしのきよかふっと〜〜いんだよぉ?

 ぜ〜〜んぜんへいきだもん 

「 おか〜さん 僕ものぼれるんだあ 」

「 まあ 二人して登っているの? 」

「「 うん  」」

「 困ったわねえ  そうだわ 後でお父さんに調べてもらいましょう

 それで大丈夫ってわかれば 登ってもいいわ 」

「 え〜〜〜  ・・・ おと〜さん まだねてるじゃ〜〜ん 」

「 あ 僕 おこしてこよっか! 」

すばるが ぽん、と手を叩く。

「 あ ・・・ お父さんねえ 昨夜 お帰りが遅かったの。

 もうちょっと寝かせておいてあげて ・・・ 」

「 ふ〜〜ん ・・・ じゃあ まってるから 」

「 え〜〜〜 アタシ きのぼり、したい〜〜 」

「 すぴか  アレ、さがそうよ?  池のむこうのとこ、

 おひさま い〜っぱいだし 」

「 え あ う〜〜ん ・・・ そだね! 

 おか〜さん! おと〜さんがおきたら うらやまにきて って! 」

「 はいはい。 ちゃんと伝えますよ。

 だからね それまでは木登り、しないでね 」

「「 ふぇ〜〜い  」」

二人は なんとな〜〜く浮かない顔をしたが それでも

元気よく勝手口から駆けだして行った。

 

「 ・・・ 裏山ねえ ・・・ そんなに危険だとは思わないけど

 でも手入れも管理もしていないから ・・・

 とにかくジョーに調べてもらいましょ 」

フランソワーズは なにやらメモを書いて ジョーの茶碗の上に置いた。

「 さ  ここの置いておけば絶対に読むわよね。

 え〜と・・・オムレツはチンすればいいし ゴハンはジャーの中。

 お味噌汁くらい温めてね〜〜 

 ・・・ う〜〜ん やっぱり土曜はいいわねえ〜〜〜 」

 

フランソワーズはエプロンを外し 伸びをした。

今日は ステキに土曜?なので 皆ゆっくり朝ご飯を楽しみ

そのあと それぞれの時間をすごしている。

博士は ベランダで盆栽の手入れをしてから書斎に籠った。

チビ達は 裏山に遊びに出た。

 

「 さあ〜て ・・・と。 今日はクラス お休みだから・・・

 そうだわ ジュニアクラスの教えまで 買い物、いってきましょう 」

フランソワ―ズは < おそうじロボ > を始動させると

二階に上がって行った。

 

珍しく 島村さんちが暮らす邸の中は静まり返っていた。

 

 

  ― そして。  

 

    ぽ ポウ   ぽ ポウ   ぽ ポウ ・・・

 

居間の鳩時計が た〜〜くさん鳴いて ・・・

皆の食器が水切り籠の中でほとんど乾いたころ。

 

「  ・・・ふぁ〜〜〜〜〜〜〜〜  ・・・・ お はよ 〜〜〜 」

 

ぼさぼさ髪のジャージ姿が ぼ〜〜〜っとリビングに現れた。

「 ・・・ ん〜〜〜 ?? 

 あれえ ・・・ 皆 まだ寝てるのかなあ〜〜 だれもいないよ? 」

ぼわぼわ〜アクビをしつつ 彼はリビングをきょろきょろ見回す。

「 あ  朝刊がちゃんと畳んである ・・・ってことは

博士がもう全部目を通したってこと か ・・・

 うん?  ・・・ なんか今朝 温かいよなあ ? 

 あ〜〜 朝メシ 朝メシ 〜〜〜 ・・・・ 」

 

     ぱったん ぱったん ぱったん 

 

スリッパを引っ掛けつつキッチンに行き ― そこにも誰もいない。

きっちり片付いたテーブルの上には 彼の茶碗とお箸だけが

ぽつねんと置かれていた。

 

「 ・・・ あ。 もうこんな時間 かあ・・・ 」

 

やっと 時計に目が行って ― ジョーはかなりの寝坊を自覚した やっと。

「 やば〜〜〜 ・・・って土曜だけど ・・・

 あれえ  フラン??  今日は朝のクラスは休みって言ってたのに

 チビ達は ・・・・?   うん? 」

彼はようやく 自分の茶碗の上に留めてあるメモに気付いた。

「 あ〜 ・・・?  なんだぁ ・・・ メシの場所ならわかってるぞ?

 ・・・ え   チビ達 裏山かあ〜〜  まあ あそこは一応安全・・・

 木??  でっかい古木ばっかだけど チビ達なら大丈夫だろ

 ・・・ あ〜〜 はいはい  安全確認しときますよ 

 ま〜ずは 腹ごしらえ っとぉ♪ 」

さて  と。 彼はのんびり朝ご飯をセットし始めた。

「 ・・・ ん〜〜〜〜  味噌汁 うま〜〜〜〜 

 じゃがいも と たまねぎ の組み合わせって最高だよなあ ・・・

 うま〜〜〜 ・・・ うふふ 卵焼き(^^♪  えへへへ ・・・

 あ〜〜〜 ウチの朝御飯は最高だあ〜〜 」

熱々のゴハンも味噌汁もお代わりをし、卵焼きも浅漬けもぺろり。

「 ・・・ 美味かったぁ  うふふ  シアワセ ・・・

 ごちそうさまでした(^^♪   さて と 」

食器を食洗器に入れ テーブルを拭き 布巾をキッチンの窓に干す。

「 ん〜〜 これでいっか。  ふぁ〜〜〜 また眠くなってきた・・・

 ん?  ナンかやること あった・・・っけ? 」

リビングのソファにどっかりと座りこんで ―  ふと思い出した。

「  あ。 そうだよ〜〜  裏山だあ〜〜 チビ達!

 大丈夫だと思うけどなあ まあ 一緒に遊んでくるかぁ〜〜 」

 

   カッコロ  カッコロ −−−−

 

庭用サンダルをつっかけ ジョーは勝手口から出ていった。

 

「 ふ〜〜〜  ・・・ あ 寒いかも・・・・

 ダウン、着てくるべきだったかなあ・・・ ま いっか 

ジャージにトレーナー姿のまま 出てきたのだ。

カン カン  カン ―  洗濯モノ干し場を抜けて 温室の横を通り

形ばかりの小さな裏口のトビラを開けた。

 

    ひゅるん 〜〜〜   やっぱり冷たい風が吹いてきた。

 

「 う ・・・ さむ・・・   やば〜〜〜  でも戻るのもめんどくさ・・・

 いいや 走ってゆこ。  あの池の側の古木だよなあ 

 

     カッ カッツ カッツ  ずず  もご もご ・・・

 

裏山に踏み込んでゆくと すぐに足元が柔らかくなってきて

庭サンダルの音は重くなってきた。

「 あや〜〜〜  こりゃスニーカーにすればよかったかなあ・・・

 池ってもっと奥なのに ・・・ 」

ぶわぶわした地面からは ぼこぼこ木の根っこやら岩の一部が覗いていて

ジョーの足元を狙っている。

「 ・・・ うわ・・・ あっぶね〜〜〜〜

 すげ〜な〜〜 アイツら こんなトコで遊んでいるのか ・・・ 」

しばらく行くと 行く手は薮で遮られてしまっている。

「 あれ・・・ 行きどまり か?! 

 あ いやいや ここは前にすぴかが教えてくれたトコだぞ? 

 確か ― ? 」

 

  − そう 夏休みに ジョーはすぴかに裏山を案内してもらっていた。

 

「 おと〜さん こっちこっち〜〜 」

すぴかがぴんぴん跳ねながら先を走ってゆく。

「 待ってくれよ〜 すぴか〜〜 

 ん? あれ ここで行きどまりだよ? 」

ジョ―が薮の前でうろうろしていると  すぴかがつんつん手を引っ張った。

「 おと〜さん  ここ。 この下、とおるとね〜〜〜

 あっちがわにゆけるんだよ〜〜  いこ! 」

「 あ・・・ 待ってくれよ〜〜 

「 ここだよ〜〜〜  ほらあ〜〜 」

 

   ガサゴソ ガサ −−−  すぴかはするり、と薮の下を抜けてゆく。

 

「 わあ  待ってくれえ〜〜  ううう 四つん這いだな こりゃ 

ジョーは 湿った地面に手と膝をついてすぴかの後を追った。

「 おと〜さ〜〜ん こっち こっち〜〜〜 」

「 お〜〜い すぴか〜〜〜 待ってくれえ〜〜〜 」

 

   ガサリ。 やっと薮を抜ければ −  目の前には 池があった。

 

「 ・・・ おわ!?!?  すっげ〜〜な〜〜〜 」

「 でしょ?  あのね あのね 池のむこうの木、あるでしょ 」

「 うん? どれ・・・ ああ あれかあ 太い樹だねえ 

「 あの木のうえ と〜〜〜ってもすずしいんだよ〜〜 」

「 ・・・ すぴか  のぼったのかい 

「 うん  カンタンだよ〜〜 」

「 ・・・ あの な。 お母さんにはナイショにしておけよ? 」

「 ?? なんで?? 」

「 あぶない〜〜って 騒ぐから 」

「 あ〜〜 あはは そうだね〜〜〜  おと〜さんはいわないの? 」

「 なにを 

「 あぶない〜〜って さ 」

「 あ〜 うん ・・・・ あの木ならすぴかが登っても大丈夫だろ

 それに すぴかは木から落っこちたりしないもんな 

「 ぴんぽ〜〜ん  おと〜さん ってばすご〜い〜〜 」

「 だけど。 気を付けろよ?  いいな。

 お父さんはすぴかを信用してるんだぞ 」

「 うん。 わかった。 

すぴかはものすごく真剣な顔で こっくり頷いた。

本気で向き合えば コドモはちゃんと本気で応えてくれる。

 

 ・・・ そんなコトがあったので ジョーは  ああ あの木か という

わりと安閑とした気分だったのだ。

 

「 ウチの奥さんは心配性だからなあ ・・・

 ま 一応調べておくか〜〜   すぴか〜〜 すばる〜〜〜 いるかい〜〜 」

周囲を見回し 呼んでみたが 応えはない。

二人が遊んでいるらしき声も聞こえない。

「 あれえ  ここにはもういないのかなあ・・・

 え〜と ここを飛び越えればすぐだな〜〜 」

ジョーは 庭サンダルのまま  湿った大地を蹴った ―    はず・・・

 

           ずっこ〜〜〜〜〜〜ん  !!!

   

   あ ・・・ !   ―  足元を取られ 彼は見事にすっ転んだ。

 

            か〜〜〜〜ん  

 

なにかとても硬いものにアタマが当たった、と思ったとたん、

辺りは真っ暗になり ―  009とあろうものが失神してしまった ・・・

 

 

「 − 大丈夫ですか? 」

 

       ・・・ あ  ・・・・?

 

ふと気付けば 見知らぬ顔が覗きこんでいる。

「 ・・ あ  ・・・ ああ  な なんとか 」

ジョーは 肘をついて起き上がったが ― 身体の下は濡れた大地・・・ではない。

つるつるした ― でもかなり硬いリノリウムみたいなもの上に 彼はいた。

「 ???  な なんだ? 」

「 大丈夫ですか  ケガ ありませんか 」

「 ・・ あ  ああ なんとか ・・・ 」

「 起きられますか 」

「 は はい  すいません〜 」

彼は ようやっと起き上がったが 目に前には見慣れぬ男性が立っていた。

 

     ??  だ だれだ???

     裏山には ウチの土地を通らないと

     入れないはずだよ?

 

「 あ ?? 」

「 よかった。 

 ここはずいぶん昔に市に寄贈された土地なんですけど

 まあ 僻地なんであまりヒトは来ませんけどね 

「 ―   へ  ・・・ ? 

彼は 改めて頭を巡らせ周囲を眺めた。

 

そこは ― 雑多な木々が生い茂り湿った大地と薮だらけの 裏山 ではなかった。

 

  足元はつるつるの素材で 隅っこにしょぼしょぼ元気のない木々が見える。

 

       ???  こ ここは  ・・・・??

 

 

Last updated : 01.31.2023.                  index      /      next

 

**********   途中ですが

早春って ―  なんか切ないよね ・・・・

一応 【島村さんち】 シリーズ  かも。